2020年7月26日日曜日

大洋を睥睨する策

 今週と先週のセンゴク権兵衛の感想。

 駿府にて、小西と毛利吉成の二人と秀吉は密議を開始する。
 他言無用の三人のみで秘する事。もし一人とて漏れたら…死は免れない。
 しかし、秀吉は案じるな、と言う。何故なら秀吉は二人を最も信頼しているからである。
 吉成は古参の内で最も実直である。無茶をさせ黄母衣衆から不平不満が続出した時も一言も文句を言わなかった。そう秀吉は話す。
 吉成は疑問に思う。どうやってその事を知ったのかと。
 秀吉は答える。長年、間諜を放っている、と。黄母衣衆、馬廻りのみならず、奉行、御伽、寺社、公家、女衆、宣教師、秀吉は各所に間諜を忍ばせていたのだ。
 さて、一方の小西。これまた、秀吉は小西が不平を漏らす事を知っている。
 だが、信用している。何故なら、小西が最も銭の理屈を知っているからだ。
 銭は正直である。好きも嫌いも是非もない。ただ得する道を選ぶ。そう秀吉は語る。

 そして本題に入る。
 それは唐入りを早める事であった。
 外海船の進歩を待とうと考えたが、間者から奉行衆は気進まないらしいと聞いている。実際、理屈をこねて先送りしようとしていた。秀吉は未知の国に行く事が不安なのだろうと考える。そして思う、自分が乱れた日ノ本をまとめた、様に見えるのだろうと。
 小西と吉成は困惑する。そうではないのか、と。
 秀吉はハッキリと否定する。信長の様に初めから土地と銭と家臣を持っている大名が国をまとめるとは訳が違う、と。
 何もない根無し草な秀吉。例えるなら、突如天から落ちたった一人で倭国に立った。無一文から伝手を作り武士となり、兵を増やし、遂にはすべてを平らげた。秀吉にとっては全国統一と言うよりは倭国征服であった。
 だから未知の国を平らげる事は倭国でも唐でも秀吉にとっては同じ心持ちであった。
 その上で、唐入りの難しさも秀吉は重々承知していた。なので秀吉の最終目標は貿易であった。唐に入り、暴れ回り、大明王朝を畏怖させて通商の約束を取り付ける事であった。
 小西は訊ねる、通商にこぎつければ自分の役目は終わり、かと。
 秀吉は、無論、と答える。
 小西は更に訊ねる。何故、急ぐのか、と。
 暫くは日ノ本のみで銭を回せる、そう小西は考えていた。十年前、小西は信長政権が高転びすると予見していた。それは銭不足が起きるからである。それを秀吉は米を貨幣となす事で回避し、さらに大豊作による米価の暴落を金配りにて統制する。
 この二つの策で諸国の食い詰め牢人も国内の銭回りで抱え込める、小西はそう見立てていた。
 しかし、秀吉は反論する。暫くは現状のままで、それこそが数多の大国の敗因だと。
 事を成すには何事も人より先を考えなければならない。世の者達は合戦が強い者が偉いと思っている。それは秩序よりも優先される。この考えが変わらないと若手奉行衆が諸大名を統制する事など能わない。
 だから銭が必要である。武断者を文治者が統制するには貿易で銭を稼ぐ他ないのだ。
 豊臣一族や側近衆が他の大名より領土が小さくても銭回りで優位に立つ事が必須。そうして畿内に経済圏を築いた。
 しかし、治部が忍城攻めを失敗し、徳川に対して小牧長久手で攻めきれなかった。その為、徳川に大領を与えなければならなかったし、畿内の経済圏の外である関東に追いやるしかなかったのだ。
 故に、貿易を急いているのだった。
 日ノ本から唐天竺にまたがる長大な通商圏奪取策。秀吉は遂にその全貌を明らかにする

 初めに、秀吉は外交の極意を教える。
 まず、小西に一番大切な物を見せるように言う。小西が渡したのはロザリオ。それを手にした秀吉はいきなり火にくべていいかと聞き、当然小西は拒否する。次に初花との交換を提案する。これには心を動かされるも、やはり拒否する。と、ここまで秀吉はさらに大切な物を隠していると看過し、それを出すように小西に催促する。小西が出したのはイコン、聖母マリヤとキリストの絵である。秀吉は言う、ロザリオとイコンどちらかを焼けと言ったらどうするか、と。小西は絞り出すようにロザリオと答える。
 秀吉は言う。これこそ外交、だと。
 ロザリオを小西に返し、説明する。
 二つの手段を組み合わせる必要がある、と言う。一つは、小さな要求から飲ませて、徐々に大きい要求を飲ませる手段。もう一つは敢えて飲めない要求を突き付けて、譲歩と言う形で何とか飲める要求を合意させる手段である。
 前者は徳川、後者は北条に使った手段である。
 そこで秀吉が描いた唐入りはと言うと。先ずは、唐に入り暴れ回り飲めない要求を突きつける。そして明が拒否したところに譲歩案。真の目的の寧波の開港と貿易の約定を取り付けるのだ。
 そこで重要なのはいかに豊臣家が強大か示威する事。そしてさらにその先の通商圏奪取の策を披露する。
 唐、天竺、安南、呂宋、高山の五カ国同時脅嚇である。それは脅威の伝播を狙ったものであった。五カ国同時に脅威の種を撒き、それぞれが他国が怯える様子を伝え聞き、更に恐れが増していく。それは唐入りの戦況と共に更に膨れ上がる。
 一国でも恐怖に屈したら脅威の仮象は実体となり、一斉に豊臣の要求を飲む事になる。
 日ノ本から寧波を軸に遠く天竺、その先南蛮まで。秀吉の脳裏には世の果てまで結ぶ一大航路が出来ているのだ。
 さて、何故この話が三人だけの秘密なのか。それは敵を畏怖するほどの合戦は味方が決死でなければいけないからである。もし外交譲歩を促すための威嚇と知られてしまえば生ぬるい合戦になってしまう。
 秀吉は改めて二人に言う。他言無用だと。そして両名に片方に怠慢があれば密告するよう互いの監視体制を敷く。
 そして秀吉は事が成就すれば、初花、新田、楢柴の全てを渡すと約した。何故なら世の最果てまでの宝が秀吉の物になるからである。

 富士を見て秀吉は言う。天下万民に聚楽の夢をば見せ給うぞ、と。

 一方権兵衛は、竹で花入れを作っていた。小諸に行かなければ実入りが分からないからである。権兵衛は初年は二万石ぐらいと考えていたのだ。しかし、家臣達は花入れぐらい買おうと言う。そんな中、通りかかった藤は言う。今、都では竹の花入れが珍重されている、と。その情報は戦の情報よりも早く伝わっていたのだ。
 だが、仙石家の者たちはそれよりも合戦の話だった。

 合戦の世は終わり、文化の時代が花開こうとしていた。高尚な武士の無常観を体現するものとして嗜まれた詫び寂びが人口に膾炙するようになってくる。
 今や、利休の新物というだけで高値で取引される対象となっていた。
 価値転換の時が来たのである。

 
 広大な秀吉の通商策でしたね。アジアの海を回遊する海のシルクロード、って感じです。
 毛利吉成って誰?って思ったら勝永のお父さんなんですね。元は森さんで毛利家の許可を貰って、九州陣の後ぐらいに毛利に改名したんだっけ。ここで出るなんて以外ですね。
 そして小西さん。この辺が朝鮮出兵の伏線になるのかな。しかし上手くいったかは……貿易に関して何もなかったから二回目の出兵に繋がったのかな。この辺りは日本国王がどうたら、で秀吉がキレた、みたいな事しか知らないんだよね。センゴクはそこまで行くのかな?関ケ原も見たいけど。

 外交の手段は、色んな交渉事での極意でもあるんですよね。基本中の基本かも。だからどこに着地点を見出すか、ですね。まぁ、一歩たりとも譲らない、って事も多いからこじれるんですよね。

 はてさて、先の先を見ている秀吉。政権の安定化も考えていますが、現実は死後に家康に奪われます。この最終章でその原因も語られるのでしょうか。楽しみです。

2020年7月5日日曜日

新たな時代新たな戦い

 センゴク権兵衛、先週と今週の感想。

 秀吉との謁見を終え、帰る権兵衛とサジ。サジはどうだったか、と訊ねる。
 権兵衛は一応は納得していた。尾藤を斬るつもりはなかった、その言葉が聞けたからだ。
 サジはでは何故斬ったのか聞くが、権兵衛はそこまでガサツではないから聞けない、と答えるのであった。
 権兵衛は言う。秀吉は何かに怯えている、そう見えた、と。それは失態する前の自分に似ていた。そうして全てを失った。でもその苦しみにもなれ、怖いモノもなくなる。
 秀吉は失敗した事が無いから失う事を恐れている。そう権兵衛は感じたのだ。
 サジは一理あると言う。そして上から目線でイラっとする、と突っ込む。
 秀吉も昔は失敗しても、一からやり直して今以上に出世する、そんな事言っていた。でもそうでは無くなった。それは齢の所為かもしれなかった。
 権兵衛は思う。端っこの端っこからでも秀吉を見守るのが恩返しなのかも、と。

 小諸は権兵衛の領地となる。
 家康が関わったのは人脈を広げる為だけではなかった。それは北条家の二の舞を避ける為であった。そう、正信に語る。
 家康は北条征伐の原因の一つに真田の横行があった、と見ていた。その為、権兵衛の小諸を緩衝地帯にしたかったのだ。更に、嫌疑を蒙った時には権兵衛を頼みに上方への往来が容易くするためでもあった。
 正信は問う。それほど権兵衛は信頼を置けるのか、と。
 家康は答える。恩は売った。それを平気で反故にする武人ならば秀吉も赦免などしない、と。
 家康は続ける。愚者が生き残る術は多くを知る事ではない。唯一の大切なことを見極めそれを守ること。彼奴はそれを体得しておると信じる。
 そして、彼奴なら自分たちに微塵も野心の無き事を信じてくれよう、と。

 権兵衛は帰還した。そして大名復帰を報告するのだが、なかなか言いあぐねていた。
 家臣達は言う。覚悟していると。そして万が一の時は反乱軍を起こす、と。
 さすがにこれには権兵衛も物騒だと言い。遂に伝える。
 小諸で大名に復帰する、と。

 藤たち奥の者は接ぎ木をしていた。これで食い扶持を稼ごうとしていたのだ。
 繊細な作業が続く中、広間から大声が響くのだ。
 皆を叱りに行く藤。そこで見たものは喜び叫ぶ皆であった。
 藤は思う、また多忙の日々が始まると。

 権兵衛は古渓にお礼の品を送る。弟子は古渓の慧眼を誉めるが古渓は方便だと言う。
 門弟にしたくないから後押ししただけだと。

 関東の知行割りが終わった。
 その一か月前、肥前国でイエズス会全体協議会が開かれていた。議題は日本での内戦であった。イエズス会を敵と認識する者が勝利すれば、我々に破滅がもたらされる可能性があるのだ。
 パシオは我々を味方とする領域を要塞と化し、身の安全を確保する事を提案する。
 これに対しオルガンティノの反論する。宣教師追放令から三年、現段階で加虐はされてない。さらに貿易は認められている。実質、追放令は空洞化している、と言う。
 そして最優先課題はフランシスコ会の進出である。
 教皇が変わり、フランシスコ会出身の新教皇はスペイン国王の要請により、フランシスコ会の日本進出を認めた。これにより前教皇により担保されていたイエズス会の日本布教独占が崩れたのだ。
 場はざわめく。しかし主導のヴァリニャーノはフランシスコ会との話は長きに亘る論争になる。と言い止める。そして喫緊の脅威に対しての軍備は不回避、と結論付けた。
 イエズス会とフランシスコ会。その背後のポルトガル、スペイン。そしてその対立を利用しようとする秀吉の思惑が交差していく事になるのだった。

 奥州仕置も終えて、駿府に向かう秀吉。そこでとある評議が開かれる予定であった。
 その途上、早馬でお寧から手紙が届く。鶴松の病気が快方に向かっている報せだった。秀吉は言う。興福寺に懇ろに祈祷させたのが効いたのだろうと。秀吉は寺に、存亡をかけて治せ、と発破をかけていたのだ。
 秀吉は駿府の評議で豊臣政権を確実なものにしようと考えていた。鶴松が何ら案ずることなく生きていく国を創るために。

 そんな評議に召集された一人に小西行長がいた。彼は大名復帰祝いに権兵衛の元を訪れていたのだが、表情は暗かった。
 小西は聞く、秀吉のご機嫌の取り方を。だが、権兵衛は知らん、と言う。そして機嫌は機嫌次第だろう、とも言った。そしてるしへる殿下とか言って和ませれば、と。
 小西は取り乱す。そんな事、秀吉に言ってないだろうな、と。そして言う、その言葉を頭から捨てろ、と。
 小西の相談は続く。自分がキリシタン大名だと言う事。そして小西家が父の代から貿易を担っている事。その為、此度古今未曾有の重責を秀吉は任せようとしている、と。権兵衛にならその重みが伝わる、と。
 権兵衛がかって背負ったものより大きな重責。失敗は赦されない。
 そして、出世するほど息苦しくて仕方ない、そう吐露する。
 権兵衛は言う。取り返しがつかない失敗をしながら、図々しく生きている卑怯者がここにいるだろう、と。
 小西の気が晴れた。小西は権兵衛に礼を言う「ニヒル」の者よ、と。

 権兵衛は見事に大名復帰、そして秀吉の考える政権がどうなるか、って感じですね。
 前回、汗を掻いていた家康ですが、今回は平静ですね。描写は少なかったけど、真田が暗躍していたのかな。ともかく、万が一のセーフティーラインを手に入れた、ってとこですかね。
 古径和尚の言葉は謙遜なのかな。まぁ半分本気かも。権兵衛が僧には…なれないでしょうね。
 そしてイエズス会。海外事情も絡めつつ、唐入りに突入するのかな。勿論、そこまで連載が続くのか分かりませんからね。今回の最終章がどこまで描くのかさっぱり分からないからね。
 そして小西。すっかり権兵衛と仲良しですね。
 権兵衛の言葉に救われた小西。彼が担う重責とは何なんでしょうか。
 そして、秀吉の考える政権の形とは。次回も楽しみですね。