2021年5月23日日曜日

皆の不安と不満

  センゴク権兵衛、210話から212話の感想。

 210話
 未だ捕まらぬ、五右衛門。伏見城は夜間封鎖する事になる。
 玄以に呼び出される権兵衛。玄以から見せられたのは五右衛門本人からの矢文であった。
 そこには、今宵城内に侵入すると書いてあった。そして、火薬を以て秀吉と共に爆死するつもりであったが、火薬庫を落とされた為に脇差一本で参る、そう予告されていた。
 権兵衛は火薬庫を落としておいてよかった、と思う。
 そんな文は字面文面から教養の高さを感じられた。
 二人の下に五郎部が現れる。曰く、既に五右衛門が侵入しているとの事であった。
 通行手形の変更を通達したところ、番兵の数名に狼狽した者がいた。自白させると、五右衛門に偽造の手形を渡していたとの事だった。
 とまれ、既に城中は封鎖した為、犯人を追い詰めている事は確かだった。
 さて、内通していたのは皆若衆である上に金銭目当てではない、と言う。権兵衛も頭目たちの住み家もどれも贅沢している様子はなかった、と言う。非常に、奇妙であった。
 
 城内が封鎖され、権兵衛たちは下水を調べる事にした。
 そして、それは大当たりであった。暗い下水の中で五右衛門と遭遇する。
 だが、五右衛門は大人しかった。権兵衛はすまぬ、と言い座ると権兵衛も座った。そして権兵衛は派手な爆死でなく、一番しょうもない結果になったと言い、脇差を出させた。
 権兵衛は五右衛門に人を従わせる才がある、と言う。そして、仕官して真面目にしてたら自分より出世したはずだ。それが何故、こんな下水で捕まる外道を選んだのか聞く。
 五右衛門は言う。合戦の世は終わり、後は死ぬまで同じ日が続くと答える。
 城中の若い番兵は戦う場も無く、死ぬまで番兵を続けるだけだと。だから五右衛門に託した秀吉の死を。それは信長が死んだ日のような天地がひっくり返るような血の滾りを求めたのだ。
 五右衛門にとっては静謐の世はドブみたいなもの。期待したのだ、ドブの中からでも何事か起こせるかもしれぬ、と。
 権兵衛には返す言葉は思いつかなかった。代わりに言う、五右衛門の言う期待が自分たちには不安である事を。
 五右衛門はさらに問う、期待より不安が勝る地位についたら繰り返しの日々が生き易くなるのかと。
 権兵衛はわからん、と答えるしかなかった。
 
 そして五右衛門らは煮殺しの刑になった。

 211話。
 文禄三年八月二十四日。三条河原にて石川五右衛門一党を成敗。
 玄以の下に呼ばれた権兵衛。此度はより過酷な煮殺しの処断であった。その為に権兵衛の心労を慮り、暇の許可を秀吉から得るようにし、小諸にもどって静養するように申し付けるのだった。さらに、奥方への土産として香まで与えるのであった。

 次に向かうは秀吉の下。その前に三成や増田が現れる。そして長居しないように言うのであった。理由は秀吉もまた心労であったからだ。その為に政治が滞っていた。
 そんな奉行衆に権兵衛は政治はどうなってるのか訊ねるが、仔細を言えるわけない、と一蹴される。

 秀吉の部屋へと入る権兵衛。その声色から機嫌がよくないのを察する。
 自分が明るくなくては、そう思い。そこの香炉の千鳥が鳴いて五右衛門の所在を教えてくれた、と語る。
 が、秀吉には通じず。香炉を褒美に欲しいなら素直に言えと言われてしまう。権兵衛は明るく答え。香を頂いたついでに香炉も欲しいと言う。
 ついで、とは言えぬほどの名器であるが、秀吉は権兵衛に与える事にした。そして言う、権兵衛はお気楽、だと。
 そうして、権兵衛は退出しようとする。が、何を思ったのか振り返りまたも、政治の今の状況を聞く。当然、教える訳がなかった。そんな秀吉を見て、権兵衛は天下人は大変そうだ、と言うのだった。
 頭の痛い発言。だが、秀吉は権兵衛の為に忙しい時間を割くことにし、座らせ、語る。
 もし、誰にも指図されず何でも思うがままで天下人が羨ましいと言ってたらどうなってか分からんぞ、と言う。
 そして、語り始める。
 暗殺未遂が一度や二度ではなかった。素性の知れん奴らがよく分からん理由で命を狙いに来る怖さ。民衆の為に良かれと政に苦心しても感謝ではなく落首で文句を言ってくる。愛想無く争うばかりの輩を安寧に導かなければならない。
 見たことのない美女、贅を尽くした御膳、絢爛な建物。誰しも羨む暮らしぶり。だが、それらを前にして欲も衰え、食指も動かなくなることが、いかにやるせないことか。
 道ですら安心して歩けない。かつて野盗に怯えていた頃の方がまだ良かった。
 貧しかったが、家に帰って母のうすい粥を皆で食い、運よく獲れた雉が入っていた日の喜び、幸せを思い出す。
 子を授かり漸く人並の幸せを得た。民衆に比べればいかに尽くし甲斐があるか。しかし、天下人である以上、愛情を注ぐことすら容易ではない。母の粥の如き幸せを我が子に与えられるのだろうか、何事も無き同じ日々を送る幸せを。
 信長が織田信長を辞する事能わず果てたのと同じく、自分も豊臣秀吉として果てざるを得ないだろう。
 凡庸なお前が羨ましい、馬鹿のゴンベエめが。
 そう最後に言うと秀吉は寝てしまった。
 三成と増田が駆け付ける。権兵衛は寝てるから静かにするよう言う。
 権兵衛は思う。秀吉は民衆から諸大名、果ては外海の者まで恐れる豊臣秀吉と言う怪物になった。しかし、それでも寝相は昔のままであった。
 そして、直に話せる機会はあと何回あるのだろう、そう思った。
 久々の秀吉の安眠に三成と増田は礼を言う。毎度の如く、聞くに堪えない話のお蔭、と言う。それに怒った権兵衛は、千鳥の香炉が鳴いて盗賊を捕まえた話をする。
 二人は内心想像以上に聞くに堪えぬ話と思うのだった。

 212話。
 五右衛門の処刑の少し前。伏見に太閤堤が完成し、京と大和を結ぶ経済大動脈が繋がった。
 九月九日には秀次が伏見へと来る。秀吉は堤を見せ、これで大坂、京、大和が結ばれたと言う。そして、それぞれお拾い、秀次、秀保の三人で天下の銭回りを担うことを託す。
 だが、懸念も残る。いくら富を増やしても血に飢える武士は多い。その為、秀次に武威を備えて欲しい、と言う。
 だが、秀次には山中城での武功がある。しかし、秀吉にはそれでは足りぬと思っていた。そして、秀吉の思惑は秀次の渡海であった。それを感じ取った秀次は自ら、渡海を切り出さなくてはいけなくなった。
 あくまで権威付けの渡海。その上での朝鮮南部の確保による講和を早める為であった。

 秀次は不満はより深く、暗くなっていた。何度も渡海を口にして、その実態は能三昧。秀次にはそう見えるのだ。
 日明講和は未だ成らざるまま。この十か月後に政権を揺るがす事件が起こるのであった。

 権兵衛は小諸に帰省していた。家臣達が忙しく動く中、権兵衛は地図と睨めっこしていた。いくら戦乱が終わったとは言え、備えはしなければならない。
 それは城下町の備えであった。城だけでなく町村も守らなくてはいけない。小田原の総構や京の御土居の様に。
 権兵衛は点在する村を城下に集めようと考えていた。しかし、家臣たちは集住までする必要性を感じて無かった。それに言った権兵衛も何となくの勘でしかなかった。
 権兵衛の何となく。それは北国街道の先、隣国の真田昌幸であった。喧嘩直前の据わった目を見て恐い、と感じるようになったのだ。

 が、勘定方は却下する。さらに、村々に行っても断られる。無用の介に相談しようと思ったが、既に勘定方を手伝っている為に断られる。

 権兵衛は座禅を組む。
 これが安寧。五右衛門が言っていた事。
 戦乱の時は村も協力的で、周囲に頼られた。だが、合戦がなくなると大名すら必要にされなくなる。そう考える。
 そして思い至る。自分が何で小諸と結ばれたのかと。それが見えて来たのだ。

 文禄、慶長年間は浅間山の噴火活動が活発であった。その麓の小諸領は目に見えて疲弊していった。そんな中、この地を近世城下町に発展させる大名が、仙石秀久なのであった。


 五右衛門、権兵衛の知り合いかな、と思ったけど別にそんな事はなかったみたいです。
 五右衛門と権兵衛の年が近いが為に思うところがあったみたいですね。
 それにしても、安寧が必ずしも皆が受け入れられるものではなく。若ければこれ以上の出世も見込めなくなるって事ですしね。だからと言って戦乱がいいのかと言うと……
 秀吉も結構まいっています。天下人として、人の親として、相容れないものを両立しなければいけないんでしょうね。少々、虚しさも感じられますね。
 ただ、皆の前では出さない、からこそ秀次も病んでいってますね。信頼関係ボロボロじゃないですか。
 そんな不穏な中、権兵衛の国造りが始まる。のかな。一度逃散されていたような。
 ともかく、次回も楽しみです。